目次
はじめに
住宅は、建てた瞬間が完成ではありません。暮らしながら手入れを重ね、次の世代へ渡していく。そんな発想を制度として形にしたのが「長期優良住宅」です。制度を知るだけでも、設計打合せの解像度が上がります。福岡市周辺で家づくりを考えるなら、断熱や耐震といった性能だけでなく、維持管理まで含めた制度として知っておくと選択肢が広がります。
第1章 長期優良住宅とは
長期優良住宅は、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた住宅で、建築と維持保全の計画を作成し、所管行政庁へ申請して認定を受ける仕組みです。新築だけでなく、既存住宅の増改築や、一定の条件を満たす既存住宅にも制度が用意されています。申請と受理は原則として着工前に行う必要があり、建築主または分譲事業者が計画を作成します。
第2章 認定基準の全体像
長期優良住宅の認定は「なんとなく高性能」では取れません。計画が、国の基準に適合していることが前提です。大枠は次の5点です。
1 構造と設備が、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられていること。
2 面積が、良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること。
3 地域の居住環境の維持や向上に配慮されていること。
4 維持保全計画が適切であること。
5 自然災害による被害の防止や軽減に配慮されていること。
この「3 地域の居住環境」は、全国一律ではなく、所管行政庁の考え方や運用とも関係します。つまり、性能だけでなく、立地と地域性もセットで見られる制度です。
第3章 長期優良住宅が向く人
この制度が向くのは、長く住む前提がはっきりしている人です。たとえば、家を資産として次の世代へ渡したい。住まいの履歴を残して、将来の住み替えでも有利な説明ができる状態にしておきたい。点検や小さな補修を、暮らしの一部として自然に続けられそう。こうした考えに近いほど、長期優良住宅の良さは実感しやすいです。逆に、建てた後のメンテナンスはなるべく考えたくない。短期間で住み替える前提が強い。という場合は、別の性能選択の方が合理的なこともあります。
第4章 メリット1 暮らしの安心が、計画として残る

長期優良住宅の一番のメリットは、良い家を建てることに加えて、良い状態を保つ道筋まで、最初に計画化される点です。維持保全計画では、点検の時期や方法、補修や更新の考え方が整理されます。住み始めてから「何を、いつ、どう手入れするか」が見えると、将来の不安が小さくなります。さらに、建築と維持保全の状況について記録を作成し、保存することが求められるため、住宅の来歴が積み上がっていきます。これは、将来の住み替えや相続の場面でも説明材料になりやすい視点です。
第5章 メリット2 快適性と資産性を両立しやすい
認定基準には、構造の安全性や省エネルギー性など、暮らしの安心につながる項目が含まれます。性能を上げること自体が目的ではなく、長く住み続ける中での事故や不具合のリスクを減らすことが狙いです。たとえば、将来の配管更新を見据えた維持管理のしやすさや、劣化を遅らせる考え方は、目に見えにくいけれど大切な部分です。結果として、住まいの温熱環境が安定しやすく、設備更新も「慌てて交換」になりにくくなります。
第6章 メリット3 税と金融の優遇が用意されている
長期優良住宅は、税の特例や融資面の優遇が用意されているのも魅力です。国土交通省の資料では、住宅ローン減税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税などの軽減が示されています。たとえば住宅ローン減税は、居住開始日が令和6年1月1日から令和7年12月31日の認定長期優良住宅について、借入限度額4,500万円、控除期間13年、控除率0.7%などの枠が掲載されています。こうした優遇は、適用期間や要件が細かく定められ、改正されることもあります。必ず最新の公的資料で確認し、設計者や税務の窓口とすり合わせて進めましょう。
第7章 福岡市周辺で意識したいポイント
福岡市周辺は、海と都市が近いのが特徴です。沿岸部の立地では、金物の防錆、外装材の選定、雨仕舞の丁寧な施工が、長期で見たときの差になります。見た目の好みだけでなく、点検と補修がしやすい納まりにしておくと、維持保全計画の実行がぐっと楽になります。
もう一つは、水害リスクの想定です。福岡市は洪水ハザードマップ、内水ハザードマップ、津波ハザードマップなどを公開しています。候補地が河川沿いか、低地か、排水が詰まりやすい都市部かで、外構の勾配、雨水排水、基礎周りの計画が変わります。設計段階でハザードを確認し、暮らしの導線と避難の考え方まで含めて整理しておくと、制度の「自然災害への配慮」という視点とも整合が取りやすくなります。
さらに、地震と地盤です。福岡市の総合ハザードマップでは、警固断層帯に関する情報や想定が示されています。地盤条件の違いは、揺れ方や液状化リスクにも関係します。長期で住む家ほど、耐震だけでなく「地盤と敷地の癖」を最初に把握しておくことが重要です。
最後に、福岡市で見落としがちなのが「居住環境の整理」です。景観や都市計画、災害関連の区域など、立地によっては添付資料や協議先の確認が必要になります。福岡市の手続きでは、居住環境基準と災害配慮基準の確認報告書も用意されています。計画段階で確認しておくと、手戻りが減ります。
第8章 認定までの流れと、福岡市の窓口
流れは大きく次の通りです。
1 設計段階で、仕様と維持保全計画を整える。
2 必要に応じて、登録住宅性能評価機関などで技術的審査を受ける。
3 着工前に、所管行政庁へ認定申請を行う。
4 認定後は、工事完了の報告、維持保全の実施、記録の作成と保存を続ける。
福岡市では、長期優良住宅の申請方法として窓口申請に加え、オンライン申請の案内もあります。オンラインでは手数料のオンライン決済に対応し、注意事項として「支払い完了をもって着工可能」などが示されています。
窓口は、福岡市役所の住宅都市みどり局 建築指導部 建築指導課で、受付時間や窓口番号も案内されています。申請書式やチェックリスト、必要添付書類も市のページでまとまっているため、まずは該当ページを起点に、設計者と提出物を揃えるのがスムーズです。
第9章 注意点。メリットを活かすには「維持管理」が必須
長期優良住宅は、認定を取って終わりではありません。認定後は、計画に基づいて維持保全を実施し、建築と維持保全の状況について記録を作成し保存する必要があります。所管行政庁から報告を求められることもあり、適切に維持保全が行われていない場合は是正指導や改善命令、場合によっては認定の取消しがあり得ます。報告の求めに応じない場合や虚偽の報告をした場合の罰則にも触れられているため、制度は「取って終わり」ではなく「続けて守る」仕組みだと理解しておくことが大切です。
また、認定に合わせた仕様が増える分、初期コストが上がる可能性があります。ここは建築コストで判断するのが合理的です。外壁や屋根など、更新が避けられない部位の仕様を少し上げておくことは、将来の負担を平準化する考え方につながります。さらに、間取りや設備の変更を後から行う場合、認定内容との整合が必要になることがあります。さらに、認定を受けた計画を後から変更する場合は、軽微な変更を除き、計画変更の認定が必要になるとされています。設計変更や増改築を検討する可能性があるときは、着工前の段階で可変性を確保し、変更手続きの段取りも設計者と共有しておくと安心です。住み始めてからのリフォームや増改築の可能性があるなら、最初から可変性と更新性を確保しておくと安心です。
第10章 維持保全計画を続ける、現実的なコツ
一番大切なのは、計画を日常に落とすことです。おすすめは「家のファイル」を一冊つくる方法です。認定書類、維持保全計画、保証書、点検記録、工事写真を時系列でまとめておくと、点検時の説明が短くなり、見落としも減ります。次に、点検時期をカレンダーに入れて、家族と共有します。年に一度、雨樋や外壁の目視、床下点検口の確認だけでも習慣にできると、修繕が小さく済む確率が上がります。最後に、何か不具合が出たときは「原因と対応」をメモして残すことです。小さな記録が、次の判断を軽くしてくれます。
第11章 後悔しないためのチェックリスト
最後に、検討段階で自分に問いかけたい項目をまとめます。
・10年後、20年後の点検と補修を、現実的に続けられそうか。
・維持保全計画の内容を、家族と共有できそうか。
・立地の特性に合わせた外装と雨仕舞になっているか。
・設備更新のしやすさを、図面の段階で確認できているか。
・優遇制度は、適用期限と要件を公的資料で確認したか。
・申請や報告の負担を含めて、工程と体制を組めているか。
・将来の間取り変更や増改築の可能性を織り込めているか。
この7つに無理が少ないほど、長期優良住宅のメリットは実感しやすくなります。
第12章 まとめ
長期優良住宅は、性能の高い家というより「長く住み続けるための設計と管理のルール」を持った家です。福岡市周辺で価値を立ち上げる鍵は、性能の数字だけでなく、立地に合わせた読み替えを最初に済ませることにあります。
たとえば、沿岸部なら塩害を見越した素材と納まり。都市部なら内水や排水計画。河川沿いなら洪水リスクの確認。沿岸低地なら津波の想定。さらに地震や地盤特性まで含め、ハザードマップで前提条件を掴んだうえで、点検と更新が無理なくできる仕様に落としていく。これが「長期で良好に使う」本質です。
優遇制度の有無だけで判断せず、住み始めてからの安心と、手入れを続けられる現実的な計画まで含めて検討してみてください。
国土交通省「長期優良住宅のページ」
